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能登半島地震の倒壊木造家屋、半数が(現行耐震基準前の)新耐震基準建物の指摘

能登半島地震の報道で、こんな見出しを見ました。

『「新耐震基準」導入後に新築・改築でも半数の木造家屋が「全壊」に…石川・珠洲の現地調査』
読売新聞オンラインニュース 2024/01/06

ちょっと意味が違うんじゃない?って思います。

(新耐震基準の半数の木造建物が)全壊した、
ということではなく、
(全壊した木造建物の半数が)新耐震基準だった、
が正しいはずです。

見出し以外の記事は正しいようなので安心しました。
この見出しだけは「いただけない」ですね。
言葉の使い方で意味が変わってしまいます。

正確な倒壊状況の報道はありがたく思います。
耐震基準の改定前後で、実際の地震時にどのくらいの差があるかは貴重な情報です。
そこでまず、能登半島地震と、阪神淡路大震災熊本地震の倒壊状況を確認してみました。

[:contents]

耐震基準の違いによる倒壊状況(能登半島地震)

震災から1月経ち、分かった倒壊状況です。
石川県珠洲市で全壊した木造家屋の半数が新耐震基準だったとのことです。

金沢大学地震工学研究室の村田晶助教は、珠洲市正院町の木造家屋約100棟のうち40棟ほどが全壊して、うち半数の20棟が1981年の新耐震基準導入後の新築か改築と指摘されています。

ただ、現行の耐震基準(2000年基準)後の新築建物は倒壊していなくて、損傷が軽微のようです。


新耐震基準を強化した現行の耐震基準(2000年基準)

新耐震基準は1981年制定ですが、その後(2000年)に大改定されています。

そのため耐震基準は、旧耐震基準と新耐震基準、そして現行の耐震基準の3つあるとされます。
ただ新旧の区分では、現行の耐震基準も新耐震基準に入ります。
そのため、旧耐震基準と新耐震基準の2つで語られることがあります。

1981年改定時の新耐震基準は、大地震にも耐えられる内容とされました。
震度6強の大地震であっても倒壊せず、命を守れるだけの耐震性を備えることが基準です。

その後、現行の耐震基準(2000年基準)で、地盤調査、筋交いや接合金物、耐震壁や床の剛性、などに亘り規定されました。
この大改定は、1995年の阪神淡路大震災の教訓をうけてのものです。
阪神淡路大震災では、新耐震基準で建築された多くの木造家屋が倒壊したのです。
新耐震基準の弱点を補う目的で改定されたわけです。


耐震基準の違いによる倒壊状況(阪神淡路大震災熊本地震)

次に、阪神淡路大震災熊本地震について確認します。

阪神淡路大震災の場合

阪神淡路大震災(1995年)の頃は、旧耐震基準の木造家屋が大半でした。
旧耐震基準の木造家屋の被害は甚大でしたが、新耐震基準を満たした木造家屋でも無視できない被害が出ました。

神戸市灘区の4区画の調査がされました。
木造家屋の全壊が、旧耐震基準は約94%、新耐震基準では約6%となっています。
木造家屋の1階倒壊が、旧耐震基準は約92%、新耐震基準では約8%となっています。

この結果は、新耐震基準の建物であっても少なくない被害と考えられました。

熊本地震の場合

熊本地震(2016年)の時は、新耐震基準の木造家屋が増え、2000年基準の木造家屋もありました。

国土交通省国土技術政策総合研究所が発表した資料があります。
それによると、震度7を2回観測した最も被害の大きい益城町中心部では、
・旧耐震基準による建物702棟のうち225棟が倒壊
・新耐震基準による建物1042棟のうち80棟が倒壊
しています。

倒壊率は、旧耐震基準が約32%、新耐震基準が約8%です。
新耐震基準の方が少ないとはいえ、80棟の倒壊は想定を超えるものでした。

また、工学院大学名誉教授の宮澤健二氏らは、益城町の宮園、辻の城、惣領の各地区で計205棟を調査した結果、2000年基準の住宅が1割あり、そのうちの3~4割が倒壊や大破していた、と指摘されています。

熊本地震の全体の被害はつぎのようになります。
木造家屋の倒壊が、新耐震基準は約9%、2000年基準で3%でした。

2000年基準であっても、熊本地震で弱点が浮き彫りになりました。


家屋は新しい建築ほど耐震性が高い

阪神淡路大震災熊本地震のどちらも新耐震基準の家屋が倒壊しました。
熊本地震では2000年基準の家屋も倒壊しました。

地震の都度、改定を重ねた耐震基準は、2000年基準に至って万全と思えました。
しかし「ほとんど倒壊の恐れはない」とまでは言えません。
まだまだ「新耐震基準」とは言えない状況が続くようです。

国が求めた「震度6強~7の大地震でも倒壊しない強度」には至っていないわけです。

それでも家屋は新しい建築ほど耐震性が高いことは分かりました。
2000年基準なら、いちおうの安全は確保されると言えそうです。


耐震基準の原点に必要なマインドは互助の考え方

ただ、こうした基準や規定について思うことがあります。

企業のなかで
・過剰の品質は稟議をとおらない
・品質は規制内ぎりぎりが一番良い
・コストが最優先
・普通の性能でもPRで受けをねらう
・丈夫で壊れないとリピート需要が減る
・何十年も使われては困る
・メーカー保証期間に故障がなければ最良
・モノづくりは、大量生産を優先
などは、私もメーカーでよく聞きました。
ハウスメーカーならずとも、製造業ならどこも同じでしょう。

国による基準や規定がないと耐震性の高い家屋を造らないのは、人の性に依るものでしょうか。
耐震化を進める原点には「(建てる側も住む側も)その一家が代々まで安心して暮らせる家を造ろう」みたいなマインドが必要だと思います。

防災のためには「自助・共助・公助」が必要と言われます。
一人一人の役割・地域の役割・行政の役割、ということですが、この中に企業などの営利法人が入っていません。
そこで、法人の役割として「互助」を加えたらいいと考えます。
介護分野の地域包括ケアシステムに「自助・互助・共助・公助」の考え方があり、そこでの「互助」とは異なる意味になりますが、言葉的には「互助」が適していると思います。

防災の考えに「法人の役割」がないのは全体の意識を下げていると思います。

法人でも個人でも、たとえ警報や避難指示が出ていても
・出社させたり出社したりする
交通機関を止めない
・その場所に行ったり遊びに出かけたりする人がいる
・メディアの報道局が警報区域にあっても業務をしていて自分たちは避難していない
・単なる警報段階では、メディアがバラエティー番組を流している
などは、法人の役割が入っていないことが大きいと思えます。

この点について別記事で言及しています。
記事はこちら↓

防災で残念に思うこと - モーニングセット


品質は規制内ぎりぎりが一番という考えは間違い

耐震化を進める近道は、営利法人が互助の心を有することだと思います。
互助の心は利他の心と同じです。

互助の心から見れば、品質は規制内ぎりぎりが一番良い、というのは間違いです。
今さえ良ければいいという考えなら、例えば「三匹の子豚」は生き残れない、かもしれません。

一番目の子豚は藁で家を建てたので、狼に吹き飛ばされ、子豚は食べられてしまいました。
二番目の子豚は木の枝で家を建てたので、狼に吹き飛ばされ、一番目の子豚と同じ運命になりました。
三番目の子豚はレンガで家を建てたので、狼は息を吹き付けても、家を吹き飛ばすことができませんでした。
こうしたストーリーがオリジナルです。
近年の版では、ストーリーが穏健な内容に差し替えられ、一番目と二番目の子豚は三番目の子豚の家に逃げ込んで子豚は三匹とも助かったことになっています。

この物語は、強固な家が安全という部分で、耐震化を進めることに似ています。

ずっと昔から「品質は規制内ぎりぎりが一番」という考えは間違いだったんですね。
「三匹の子豚」は教訓が詰まっていて参考になります。


おわりに

能登半島地震と、阪神淡路大震災熊本地震の倒壊状況を確認しました。
実際に起きた地震の被害を見ると、耐震基準の改定前後でどのくらいの差があるかが分かります。

記事中では、新耐震基準を強化した現行の耐震基準(2000年基準)の要点もまとめました。

互助の考え方が社会全体に広がることで、耐震化が自主的に進められる可能性について言及しました。
防災に「法人の役割」が加えられることも期待します。

この記事が参考になりましたら幸いです。